先生、体温が測れません!!
最近の当直での低体温疑いの1例
70歳女性、夜中に側溝にはまっているところを近隣者が発見し救急搬送。
救急隊tell:「体温が測れないんです。
その他バイタルは意識清明、心拍数87/分、血圧126/84mmHg、
呼吸数18回、SpO2 99%(room air)と安定しています。 頭部打撲と
左手擦過傷あります。ご家族は同乗しています。あと5分で着きます」
もちこ先生(当直4回目):あと5分か。何を準備しておいたらいいかな?
看護師さん、膀胱温って測れます?
看護師さん:ありますよー!輸液も温めておきますね!
もちこ:お願いします、ルート確保と採血お願いします。
ポータブル心電図と胸部Xpオーダーします。
身体所見とってから頭部CTも行きます。血ガスは私とりますね。
心電図Osborn波みれるかな??
あとは〜、、
ピーポーピーポー
救急隊:夜中に出かけてから推定2時間以上側溝にはまっていたようです。
バイタルは上記。心筋梗塞、認知症既往ありで、お薬手帳はこちらです。
認知症のためか、転倒前後のご本人からの病歴ははっきりしません。
家族と同居中で、ご家族一緒に来られてます。
もちこ:ありがとうございます。
◯◯さーん!!わかります?
(手足を触って)冷たいけどそこまでではないかも?
見当識は名前のみ◯。ABクリア。C(循環)は心拍数87/分、血圧126/84mmHg
CRT<2秒以内とクリア。GCS full。前の意識消失やけいれん発作の有無は不明。
瞳孔径3mm/3mm 対光反射(+)構音障害なく四肢に明らかな麻痺はなさそう。
切迫するDはないなあ。
看護師さん:もちこ先生、腋下で体温測れました!!
36.3℃です。
もちこ:…それ…私の平熱のが低いよ…
◯勉強メモ◯
低体温症(hypothermia) は膀胱温と直腸温などの35℃未満の状態と定義される。
低体温の原因は衰弱・外傷・脳卒中・感染症・アルコール・薬物中毒など様々な疾患が存在する。
徐脈や不整脈、意識障害などの多彩な症状を呈する。予後は深部体温のみに依存するものではなく、その背景疾患などによるが30~40%程度の死亡率であると思われている。
受動的体外加温:毛布などで体表を覆い、体内で産生される熱の喪失を少なくする
能動的体外加温:電気毛布・強制空気加温器などを使用して体表から加温する方法である。軽症ー中等症で選択され、重症例でも体内加温と合わせ選択される。1-3℃の復
温が期待される。
体内加温:42℃に加温した輸液の使用、胃・膀胱内灌流、胸腔・腹腔・縦隔灌流を使用し加温する方法である。主に重症例で選択され、3~9℃の加温が期待できる。
体外循環:経皮的心肺補助PCPS:熱交換器を組み込み加温する方法で最大1~2℃/分の復温が期待できる。
低体温症は脱水状態を伴うことが多く、多量の補液をしばしば要する。電解質、血糖値を繰り返し確認し補正する必要がある。
低体温の心電図
J波(osborn波):QRS終末部にノッチを認める
特にV3~V4で顕著に認められる。J波の高さは低体温の程度に相関するといわれる。
その他低体温時には、洞徐脈、房室接合部調律、PR間隔やQT時間の延長を伴うことが多い。
◯転機◯
バイタルは安定、毛布と輸液で体温は36℃台前半を維持。
心電図、頭部CTなどその他検査で明らかな異常なく、頭部と左足の創傷処置、頭部打撲の説明をしてご家族と共に無事ご帰宅されました。
参考文献:
今日の治療指針2014 p990
心電図パーフェクトマニュアル p186,187